欧州委員会が2026年7月16日、デジタル市場法(DMA)に基づき、Googleに対して拘束力のある特定措置(binding specification measures)を2件決定しました。出典は欧州委員会のDMA公式サイトです。1件はAndroid上のAIサービスに関する相互運用、もう1件はGoogle検索データの共有です。
この記事を読むうえで先に区別したいのは、今回の決定が「他社AIを今すぐ全Android端末で使えるようにした」という発表でも、「Googleへ制裁金を科した」という発表でもないことです。欧州委員会は、GoogleがDMA上の義務をどう実装するかを具体化する2組の拘束力ある措置だと説明しています。主要な実装期限は2027年と2028年に置かれており、検索データを受け取れる事業者にも利用規模や監査などの条件があります。(欧州委員会の発表)
先に結論:決まったことと、まだ決まっていないこと
今回のニュースは、次の4点に分けると理解しやすくなります。
- Googleは、Androidで自社サービスが使える11分野の機能について、条件を満たす他社AIにも同等に使える仕組みを用意する必要があります。
- Googleは、匿名化したランキング、クエリ(検索語)、クリック、閲覧の各データを、条件を満たすオンライン検索事業者へFRAND条件で提供する必要があります。FRANDは「公正・合理的・非差別的」という意味です。
- 利用者の同意、端末の安全性、受領企業の適格性、独立監査、利用目的の制限は残ります。開放と無条件アクセスは同じではありません。
- Android側の中心的な実装はAndroid 18かつ2027年8月1日まで、複数AIの音声待受を同時に動かす機能はAndroid 19かつ2028年8月1日までです。検索データ側も2026年8月末から2027年1月まで段階的な準備が続きます。
したがって、2026年7月26日時点で一般利用者がすることは、新しい設定項目を探し回ることではありません。どの義務が決定済みで、どの機能が実装待ちなのかを分け、Googleと欧州委員会の今後の公開情報を追う段階です。
決まった2つの措置
1つ目はAndroidの開放です。利用者が自分の選んだAIアシスタントを音声やホームボタンから起動し、利用者が許可した範囲でアプリ内やOS上の操作を代行させられるようにすることを求めています。欧州委員会は、メールの下書きと送信、買い物リストへの追加、料理の注文、ライブ翻訳などを利用例に挙げています。これまでAndroid端末で音声起動や深いOS連携の特等席にいたのは、主にGoogleのサービスでした。その席を条件付きで他社のAIにも開く内容です。(Android上のAI相互運用に関するQ&A)
2つ目は検索データの共有です。Google検索のランキング、クエリ、クリック、閲覧データを匿名化したうえで、条件を満たす第三者のオンライン検索事業者へFRAND条件で提供することを求めます。検索機能を提供するAIチャットボットも対象になり得ますが、一般のAIチャットボットが自動的に受け取れるわけではありません。(Google検索データ共有に関するQ&A)
Google側は反発しています。グローバル担当責任者のKent Walker氏は、今回の決定が欧州の利用者にとって重要なプライバシーとセキュリティの防護策を弱めるおそれがあると主張しました。Androidで外部アプリに強い権限を与えることと、検索データの匿名化が十分かどうかを問題にしています。これはGoogleの公式見解であり、欧州委員会による事実認定とは分けて読む必要があります。(Googleの公式見解)
DMAは何をする法律なのか
DMAは、大規模なデジタル基盤を運営する「ゲートキーパー」に対して、競争可能性と公正さを保つための義務を課すEUの規則です。EU理事会は、消費者の選択肢を増やし、小規模企業や新規参入者へ機会を広げることを目的として説明しています。Alphabetは、Google AndroidやGoogle検索を含む複数の中核プラットフォームサービスについてゲートキーパーに指定されています。(EU理事会「Digital Markets Act」)
今回の2件に直接関係するのは、DMA第6条7項と第6条11項です。
- 第6条7項は、ゲートキーパー自身のサービスやハードウェアが利用できるOS・仮想アシスタントの機能について、他社サービスにも無料で有効な相互運用を認めるよう求めます。
- 第6条11項は、無料・有料検索から生じるランキング、クエリ、クリック、閲覧データへのアクセスを、第三者のオンライン検索事業者へFRAND条件で提供するよう求めます。クエリ、クリック、閲覧データが個人データに当たる場合は匿名化が必要です。
- 第8条2項は、欧州委員会が義務を有効に履行するための具体的な措置を定める手続きの法的根拠です。
以上はDMAの統合条文で確認できます。(EUR-Lex「Regulation (EU) 2022/1925」)
ここでいう「相互運用性」(=異なる会社の製品やサービスが連携して動く性質)は、他社AIを端末へインストールできるだけでは足りません。GoogleのAIが使えるOS機能に、他社AIも実効的に接続できることが焦点です。また、仕様決定はGoogleの全サービスを開放する命令ではなく、今回特定された機能と条件を具体化するものです。
今回の決定は制裁金ではない
「拘束力がある」と「制裁金を科した」は別の話です。欧州委員会の説明では、仕様決定はゲートキーパーがDMAへ適合しているか、違反しているかを結論づける決定ではありません。そのため、今回の仕様決定そのものに制裁金は付きません。仕様手続きは、欧州委員会とゲートキーパーの規制上の対話を通じて、有効な履行に必要な具体策を定める制度です。(欧州委員会「Interoperability」)
一方、非遵守決定は、調査の結果としてDMA上の義務に違反したと判断し、違反の停止を命じる別の決定です。こちらでは制裁金が科される場合があります。EU理事会の制度説明によると、DMA違反には全世界売上高の最大10%、反復した違反には最大20%の制裁金があり得ます。ただし、この一般的な上限を今回Googleへ科された金額として読んではいけません。(EU理事会「Digital Markets Act」)
| 比較する点 | 今回の仕様決定 | 非遵守決定 |
|---|---|---|
| 主な目的 | 義務を有効に履行する具体策を定める | 義務違反の有無を判断し、停止を命じる |
| 今回のGoogle案件 | Android相互運用と検索データ共有を具体化 | 今回の記事の対象ではない |
| 決定自体の制裁金 | 付かない | 科される場合がある |
| 今後見るもの | 実装、申請制度、報告、監視 | 違反認定、是正命令、制裁 |
この区別ができると、「EUがGoogleへ罰金を科した」という誤った要約を避けられます。同時に、制裁金がないから任意のお願いだと軽く見るのも誤りです。欧州委員会は2026年7月16日の最終決定を、Googleが実装すべき拘束力ある措置として公表しています。
Androidで開かれる11機能
欧州委員会は対象を11の機能に整理しています。細かなAPI名を暗記するより、起動、文脈、操作、計算資源の4分野で理解すると、利用者に何が変わり得るかをつかみやすくなります。(Android上のAI相互運用に関するQ&A)
| 分野 | 対象になる機能 | 利用場面の例 |
|---|---|---|
| 起動 | ホームボタンなどの長押し、常時ホットワード検出 | 画面を見ずに選んだAIを音声で呼ぶ、表示中の画面を起点に質問する |
| 文脈 | 端末内アプリデータへの集中的アクセス、文脈認識、マイクや画面などの周辺データ | メール内の便名を会話中に提示する、画面内容を説明する、ライブ翻訳する |
| アプリ・OS操作 | 構造化されたアプリ連携、画面自動操作、システム設定との連携 | メールを作成する、買い物リストの商品を注文する、明るさや再生を変える |
| 計算資源 | 端末内モデルの利用、他社モデルの端末実装、バックグラウンド実行 | オフライン処理、文章要約、画面を閉じた状態での補助処理 |
11機能は、長押しによる起動、常時ホットワード検出、端末内に保存されたアプリデータへの集中的アクセス、文脈認識、周辺データ、構造化された端末内連携、画面自動操作、システム連携、システムレベルの端末内モデル、端末内モデルの実装、バックグラウンド実行です。
欧州委員会が公開した最終措置の非機密版には、ホームボタン長押しで画面の文脈を受け取る仕組み、画面が消えていても音声待受を動かす仕組み、他社AIが端末内データやセンサーを扱う際の条件などが列挙されています。公開版は情報提供用であり、文書自身も採択された決定だけが法的拘束力を持つと注意しています。(Android相互運用の最終措置PDF)
大事なのは、利用者の明示的な同意が前提であることです。端末内の全データが他社AIへ自動的に渡る制度ではありません。アプリ側が共有対象にした情報、利用者が許可した機能、AIサービスが満たした条件の組み合わせで利用範囲が決まります。
いつ、どの端末で使えるのか
主要な措置の期限は、次のメジャー版であるAndroid 18、かつ2027年8月1日までです。複数のAIサービスが同時に音声の呼びかけを待ち受ける仕組みは、Android 19、かつ2028年8月1日までとされています。(Android相互運用の最終措置PDF)
この日付は「すべてのAndroid端末に同じ日に配信される」と読むものではありません。欧州委員会の最終措置は、対象機能がその端末に存在し、AndroidやGoogleのシステム更新を受けている端末を前提としています。端末メーカーによる違いもあり、機能を支えるハードウェアがない端末へ新しい部品の搭載まで求める内容ではありません。
実際に利用できないときは、次の順番で切り分けると誤解を減らせます。
- Androidのバージョンを確認します。Android 18より前なら、今回の主要措置の期限前です。
- 端末メーカーとGoogleから、対象機能を含むシステム更新が配信済みかを確認します。
- 利用したいAIサービスが、その機能への対応を公式に案内しているかを確認します。
- 端末の設定でAIサービスを選び、対象機能ごとの同意画面が表示されるかを確認します。
- 画面自動操作など機微な5機能では、AIサービスが適格性の審査を通っているかを確認します。
成功の目印は、単にAIアプリがインストールできたことではありません。選んだ起動方法でAIを呼び出せること、許可した文脈だけが渡ること、アプリやOSの操作後に結果が画面上で確認できることです。設定名や画面構成は実装前なので、現時点で架空のメニュー名を探す必要はありません。
プライバシーと端末安全の条件
Androidの開放は、権限を広く配るだけでは成り立ちません。欧州委員会は、Googleがシステムの完全性を守るために、厳密に必要で比例的な措置を取れるとしています。利用者は、どのAIサービスにどの機能を許可するかを選びます。
とくに、画面自動操作、構造化された端末内連携、システム連携、端末内アプリデータへの集中的アクセス、文脈認識の5機能では、Googleが客観的かつ非差別的なプライバシー・安全・完全性の適格条件を設けられます。独立した第三者も認証へ関わります。適格性制度の案は2027年2月1日まで、最終条件は同年5月1日までに公表し、申請の評価は受領後4週間以内とされています。(Android上のAI相互運用に関するQ&A)
利用者側では、便利さだけで判断せず、次を確認する必要があります。
- 常時音声待受を許可するか。画面を消した状態でも動く機能なので、電池消費や音声処理の説明を読みます。
- 画面、位置、マイク、カメラのうち、目的に必要なものだけを許可できるか。
- AIが注文や送信を代行するとき、確定前に内容を確認できるか。
- 許可を後から取り消せるか。アプリ削除だけでなく、OS側の権限画面も確認します。
- 端末内処理とクラウド送信の区別が説明されているか。
Googleは、外部アプリへ強い端末権限を与えることが安全性を損なうおそれがあると主張しています。一方、欧州委員会は同意、適格性、プロセス分離、暗号化、利用者への通知などを措置へ組み込んだと説明しています。現時点では「開放したから危険」「EUが決めたから安全」のどちらかに決めつけるより、実装された権限画面、審査条件、事故時の対応を確認するのが現実的です。
共有される検索データの範囲
検索データ側で共有対象になるのは、無料検索と有料検索から生じる、匿名化済みのランキング、クエリ、クリック、閲覧データです。具体例には、利用者が入力した検索語、言語や端末種別などのクエリ情報、閲覧されたURL、検索結果上での操作、検索結果の表示順位が含まれます。(Google検索データ共有に関するQ&A)
一方、Googleの検索アルゴリズムや検索技術そのものを提供する措置ではありません。受領者は共有データを使い、自社の検索技術を開発・改善します。また、Googleが内部で持つデータをそのまま複製して渡すわけでもありません。利用者のアカウント情報や検索履歴は共有せず、正確な時刻を外す、長すぎる検索語や希少語を含む検索を抑制する、位置情報を粗くする、といった加工が入ります。
検索事業者にとって使い道になり得るのは、検索意図の理解、スペル候補、関連検索、入力補完、検索順位、情報の取得、Webページの索引作成などです。検索機能付きAIチャットボットでは、最新情報をWeb検索で取得して回答の根拠にする仕組みの改善へ使える場合があります。
ただし、受領データを汎用AIモデルの学習に使うことは認められていません。検索と無関係な広告や消費者プロファイリング、Google検索結果の体系的な複製も用途外です。最終措置の非機密版は、AIチャットボットでは検索やグラウンディング(=外部情報を取得して回答の根拠にする仕組み)の改善に限り、基盤となる汎用LLMの学習は含まれないと明記しています。(検索データ共有の最終措置PDF)
誰が検索データを受け取れるのか
「競合なら誰でも受け取れる」という理解は正確ではありません。対象は、オンライン検索サービスを実際に提供し、適格性と監査の条件を満たす企業です。検索機能を提供するAIチャットボットも含まれ得ますが、AI企業という肩書だけでは足りません。
欧州委員会のQ&Aと最終措置では、主に次の条件が示されています。
- EUで直近2年以上オンライン検索サービスを提供している、または設立2年未満でも5,000万ユーロを超える資本投資を受けた新規参入者であること。
- 過去1年間にEUで月平均5万人以上のオンライン検索利用者がいること。
- EUの制裁対象ではなく、深刻で構造的なサイバーセキュリティまたはデータ保護上の危険を持つ第三国に支配されていないこと。
- EEA内で処理するか、EEAと実質的に同等の保護を確保できること。
- 受領前の独立監査を通り、共有開始後6か月以内と、その後少なくとも年1回の監査を受けること。
この条件から、個人開発者が申し込んですぐ全データを取得する制度ではないと分かります。受領企業は、データを検索サービス改善だけに使う管理体制、第三者への再共有を防ぐ仕組み、再識別を試みない統制、保持期間の管理などを用意する必要があります。費用も無条件に無料ではなく、Googleは共有のための追加費用と合理的な資本収益を反映した対価を請求できます。
データの受領を検討する企業は、申請前に次を整理する必要があります。
- 自社サービスがオンライン検索を提供していることを、利用画面と事業資料で示します。
- EUでの提供期間、月間利用者数、資金調達の条件のどれを満たすか確認します。
- 検索データを使う目的を、検索順位、索引、検索候補、AI検索の取得機能などへ限定します。
- データを隔離した環境で扱い、他の顧客データと結合しない設計を用意します。
- 独立監査を依頼する費用と期間、Googleへ支払うデータ利用料を見積もります。
これらの準備に費用と時間がかかるため、小規模な事業者にとって利用しやすい制度になるかは、申請画面、契約書、価格が公開された後に改めて評価する必要があります。
匿名化はどのように行われるのか
検索データには、病気、住所、口座、仕事上の秘密など、入力した人を推測し得る情報が混ざる場合があります。そのため、個人名を削るだけでは匿名化になりません。欧州委員会の措置は、技術的な加工、契約上の制限、隔離環境、独立監査を重ねる方式です。
技術面では、Googleのユーザー名やIPアドレスなどの直接識別子を外し、正確な時刻や入力形式といった属性も削ります。さらに、希少語や異常に長い検索語を抑制し、位置、端末種別、言語が同じ利用者を最低1,000人の集団へまとめるk匿名化(=同じ属性を持つ人を一定人数以上にまとめ、個人を見分けにくくする方法)を用います。欧州委員会の説明では、利用者の95%は2万9,000人以上の集団に入る設計です。(Google検索データ共有に関するQ&A)
契約面では、受領者が検索データを他のデータセットと結び付けないよう隔離し、第三者への開示、再識別、匿名化加工の逆転を禁じます。受領前の監査に加え、利用中も監査が続きます。検索データが渡るのは、利用者が検索してから最低7日後で、各受領者がアクセスできる期間は選択により最大5年です。ただし、受け取った個別データセットの保持期間には別の上限が定められており、最終措置では最大13か月とされています。
それでも、匿名化の評価は一度で終わりません。利用者本人ではなく、検索対象になった人物の個人データが検索語に含まれる場合もあり、受領事業者にはGDPR上の責任が残ります。欧州委員会は独立評価や市場の変化に応じて手続きを再開できると説明しています。Googleは、検索内容が不慣れな企業へ渡り、匿名化が不十分になるおそれを主張しています。この対立は、制度の目的だけでは解けず、実際のデータ加工と監査結果で検証する必要があります。
検索データ共有の実装日程
検索データ共有には、申請、契約、試験、匿名化、価格提示の段階があります。欧州委員会が示した日程は次のとおりです。(Google検索データ共有に関するQ&A)
| 期限の目安 | Googleが行う主な準備 | 読者が確認できる変化 |
|---|---|---|
| 2026年8月末まで | 適格性申請書を欧州委員会へ提出し、申請方法のページを公開 | 申請窓口と必要書類が見える |
| 2026年9月まで | 契約書ひな形、試験用データ、費用項目を用意 | 利用条件と試験方法を比較できる |
| 2026年11月まで | 匿名化した検索データセットを完成 | データ範囲と加工方法を具体的に確認できる |
| 2027年1月まで | 最終価格を提示し、欧州委員会と第三者の検索事業者へ伝える | 導入費用を含めて利用可否を判断できる |
この表から分かるように、2026年7月16日の決定と同時にデータ配布が始まったわけではありません。申請ページが見つからない、価格が分からない、試験データを取得できないといった状況は、直ちにGoogleの不履行を意味しません。各期限を過ぎても公式情報が公開されない場合に、初めて日程との差を確認します。
企業向けの確認手順は次のとおりです。
- 欧州委員会の検索データ共有Q&Aを開き、「Implementation timeline」を確認します。
- 記載された期限を過ぎたら、同ページからGoogleの申請ページや最新の最終措置へ進みます。
- 申請前に、契約書ひな形、適格性の質問、監査要件、試験データの条件を保存します。
- 試験データで、自社の検索品質が改善するか、匿名化で必要な信号が失われていないかを測ります。
- 価格、監査費用、隔離環境の運用費を含め、導入前後の費用を比較します。
成功の目印は「データを受け取った」だけではありません。利用目的を検索改善へ限定でき、監査に必要な記録が残り、再識別を防ぎながら、自社の評価指標で検索品質の変化を測れる状態です。
利用者とAI・検索企業に何が変わるのか
AIアシスタントの勝負どころは、モデルの賢さと同じくらい「どこに置かれ、何を操作できるか」です。スマホのOSに深く組み込まれたAIは、音声で呼べる、画面を理解できる、他のアプリを操作できるという利便性を持ちます。今回の措置は、その置き場所とOS機能への接続を条件付きで他社へ開くもので、OSを持たないAI企業にも参入機会が広がる可能性があります。
ただし、特定のAI企業が受益者になると現時点で断定はできません。Android側では各社が対象機能へ対応し、一部では適格性審査を通る必要があります。検索データ側では、オンライン検索サービスの提供実績、EUでの利用規模、監査体制、データの用途制限が求められます。
検索データの共有も、検索機能を持つAIチャットボットの回答品質に関係する話です。「人々が何を検索し、どの結果を選んだか」は、検索意図、順位付け、情報取得を改善する材料になります。欧州委員会は、Google検索が欧州で長年90%を超える市場シェアを持ち、大規模なデータを集められることを競争上の背景に挙げています。(Google検索データ共有に関するQ&A)
一般利用者にとって期待できるのは、Androidで選べるAIアシスタントや検索サービスが増え、それぞれが機能面で競争しやすくなることです。一方で、許可画面が増える、端末や地域で利用開始時期がずれる、対応AIによって安全対策やクラウド送信の範囲が異なる可能性があります。選択肢の増加は、確認事項の増加も伴います。
アプリ開発者にとっては、利用者が選んだAIからメール、配車、メッセージ、買い物などの機能を呼び出してもらえる可能性があります。ただし、AIによる誤操作への対策、確定前の確認、取り消し方法、アプリ側の共有範囲を設計する必要があります。AIに対応しない選択や、金銭・医療・本人確認など高い正確性が必要な操作を人の確認付きにする選択も合理的です。
検索事業者にとっては、データ不足を補う道が開きますが、監査、価格、データ隔離、用途制限の負担があります。小規模事業者が無理に利用するより、公開される試験データで改善幅を測り、費用を上回る効果が見込める場合だけ本契約へ進む方が安全です。
やらない方がよい判断
今回の決定を受けても、次の行動は急がない方がよいでしょう。
- Android 18の実装前に、非公式アプリや改造手順で同等機能を再現しようとすること。OSの深い権限を扱うため、公式実装と審査を待つ方が危険を減らせます。
- 常時音声、画面、位置、アプリデータを、用途を確認せず一括で許可すること。便利な機能でも、必要な権限は利用場面ごとに異なります。
- 「EUが認めたAIだから安全」と考えること。EUの措置は相互運用の条件を定めるもので、各AIサービスの回答精度や運営品質を保証するものではありません。
- 「匿名化済みだから個人情報の問題はない」と考えること。技術的加工に加えて、契約、隔離、監査、再評価が組み合わされる制度です。
- 検索データを汎用AIモデルの学習へ使えると見込んで事業計画を立てること。最終措置は、検索機能やグラウンディングの改善と、汎用LLMの学習を分けています。
- 申請条件や最終価格が出る前に、検索データを前提とした大きな費用を投じること。利用資格、監査、価格の確定後でも遅くありません。
また、日本を含むEU圏外へ同じ機能が提供されるかは、今回確認した一次情報だけでは分かりません。Googleが開発効率のために共通実装を採る可能性はありますが、EU向けの義務をそのまま世界共通の提供予定として扱うのは早計です。地域設定、端末、Androidの版、各社の公式発表を分けて確認する必要があります。
今後の見どころと確認手順
Googleが措置をどう実装するか、そして匿名化した検索データがどの粒度で実用性を保つかが焦点です。プライバシー保護と競争促進の線引きは技術的にも難しく、制度上の約束だけでなく、公開された仕様、申請条件、監査結果を追う必要があります。
一般読者がニュースを確認するときは、次の順番が使えます。
- 欧州委員会の2026年7月16日発表で、2件の決定が変わっていないか確認します。
- AndroidのQ&Aで「Timeline」と「Implementation of the measures」を読み、版と日付、同意、適格性の条件を確認します。
- 検索データのQ&Aで「Conditions and process to access the data」と実装日程を確認します。
- 法的な文言が必要ならEUR-Lexの第6条7項、第6条11項、第8条2項へ戻ります。
- Googleの反論はGoogle公式ブログで確認し、欧州委員会の説明と同じ事実として混ぜません。
ニュース記事を見たときは、「決定日」「実装期限」「利用開始日」を別々にメモすると混乱しにくくなります。Androidなら、決定は2026年7月16日、主要期限は2027年8月1日、複数AIの同時音声待受は2028年8月1日です。検索データなら、決定後に申請ページ、契約、データセット、価格が順次用意されます。
確認が成功した状態は、見出しだけでなく、対象となる機能、利用者の同意、受領企業の条件、実装期限まで一次資料で説明できることです。公式ページに更新が入った場合は、古いニュースの数字を流用せず、更新日と最終措置を見直します。
よくある質問
今回、Googleに制裁金が科されたのですか?
いいえ。今回の仕様決定は、DMA上の義務を有効に履行するための具体策を定めるものです。欧州委員会は、仕様決定では適合・違反の判断をせず、決定自体に制裁金は付かないと説明しています。違反を認定して制裁金を科す場合がある非遵守決定とは別です。(欧州委員会「Interoperability」)
他社のAIアシスタントはAndroidで何ができるようになりますか?
音声やホームボタンからの起動、画面やセンサーなどの文脈利用、アプリやOSの操作、端末内モデル、バックグラウンド実行など11機能が対象です。ただし、利用者の同意が必要で、一部機能には適格性審査があります。端末に機能を支えるハードウェアがあることや、対応する更新が配信されることも前提です。
どのAI企業でもGoogleの検索データを受け取れますか?
いいえ。オンライン検索機能を提供し、EUでの事業実態、月平均5万人以上の利用規模、データ保護、安全性、独立監査などの条件を満たす事業者が対象です。検索機能を持つAIチャットボットは条件を満たせば対象になり得ますが、一般のAIサービスへ一律に共有される制度ではありません。
個人の検索履歴がそのまま共有されるのですか?
欧州委員会の措置では、利用者のアカウント情報や検索履歴を共有せず、直接識別子や正確な時刻を削り、希少語や長い検索を抑制し、位置などを一般化します。さらに隔離環境、用途制限、独立監査を組み合わせます。ただし、Googleは匿名化が十分かどうかに懸念を表明しており、実装後の評価も必要です。
検索データで汎用AIモデルを学習できますか?
できません。措置が認めるのは、オンライン検索サービスの開発・改善や、AIチャットボットの検索・グラウンディング機能の改善です。基盤となる汎用LLMの学習、検索と無関係な広告や消費者プロファイリング、Google検索結果の体系的な複製は用途外です。
これらの機能やデータ共有はいつ始まりますか?
Androidの主要措置はAndroid 18かつ2027年8月1日まで、複数AIの同時音声待受はAndroid 19かつ2028年8月1日までです。検索データ側は、2026年8月末までの申請ページ、同年9月までの契約書ひな形と試験データ、11月までの匿名化データセット、2027年1月までの最終価格という節目があります。端末や企業ごとの実際の利用開始日は、対応状況や審査で異なります。
まとめ
今回の2件は、AIと検索の競争条件を、スマホOSの機能と検索データの両面から具体化する決定です。Androidでは、他社AIが起動、文脈、アプリ操作、端末内の計算資源へ接続できる道を広げます。検索では、条件を満たす検索事業者が匿名化データへアクセスし、自社の検索技術を改善できる道を作ります。
一方で、今すぐ全端末で使えるわけではなく、データを誰でも受け取れるわけでもありません。利用者の同意、5つの機微なAndroid機能の適格性、検索事業者の利用規模、独立監査、用途制限、価格が残ります。Googleはプライバシーとセキュリティへの懸念を示しており、欧州委員会は多層の匿名化と監視で対応する立場です。
今後は、Googleの実装、第三者AIの対応、検索データの申請条件と価格、匿名化の独立評価を確認します。決定済みの義務と、これから実装・審査される部分を分けて追うことが、このニュースを過大にも過小にも評価しないための要点です。
Sources
確認日:2026年7月26日。本記事の主張のうち、外部の制度、仕様、機能、公式見解にあたる部分は以下の一次情報で確認しました。
- 欧州委員会「Commission provides guidance to Google for AI interoperability on Android and sharing of Google Search data under the Digital Markets Act」:2026年7月16日に2件の拘束力ある特定措置が出され、AndroidのAI相互運用とGoogle検索データ共有が対象になったことを確認しました。 https://digital-markets-act.ec.europa.eu/commission-provides-guidance-google-ai-interoperability-android-and-sharing-google-search-data-under-2026-07-16_en
- 欧州委員会「Alphabet specification proceedings - Interoperability for AI services」:他社AIが音声で起動でき、利用者の同意のもとでアプリ内操作を代行できるようにする措置と、その対象となるAndroidの機能を確認しました。 https://digital-markets-act.ec.europa.eu/developer-portal/interoperability/alphabet-specification-proceedings-interoperability-ai-services_en
- 欧州委員会「Alphabet specification proceedings - Sharing of Google Search data」:匿名化したクエリ・クリック・ランキング・閲覧データを対象に、検索機能を持つAIチャットボットも受領資格を持ち、公正・合理的・非差別的な条件が求められることを確認しました。 https://digital-markets-act.ec.europa.eu/developer-portal/data-access/alphabet-specification-proceedings-sharing-google-search-data_en
- 欧州委員会「Interoperability」:仕様決定は違反認定ではなく、決定自体に制裁金が付かないことを確認しました。 https://digital-markets-act.ec.europa.eu/developer-portal/interoperability_en
- EUR-Lex「Regulation (EU) 2022/1925」:DMA第6条7項、第6条11項、第8条2項の法的根拠を確認しました。 https://eur-lex.europa.eu/eli/reg/2022/1925/2022-10-12/eng
- 欧州委員会「DMA.100220 - Google Android - Final Measures」:11分野の具体的措置、Android 18・19の実装期限、利用者の同意と適格性に関する条件を確認しました。 https://ec.europa.eu/competition/digital_markets_act/cases/202629/DMA_100220_2683.pdf
- 欧州委員会「DMA.100209 - Google Search data - Final Measures」:受領事業者の条件、用途制限、匿名化、監査、申請手続きの詳細を確認しました。 https://ec.europa.eu/competition/digital_markets_act/cases/202629/DMA_100209_2712.pdf
- Google「The DMA should not undercut security & privacy for Europeans」:Kent Walker氏が、今回の決定は欧州の利用者のプライバシーとセキュリティを損なうおそれがあるというGoogleの公式見解を表明したことを確認しました。 https://blog.google/company-news/inside-google/around-the-globe/google-europe/the-dma-should-not-undercut-security-privacy-for-europeans/
- EU理事会「Digital Markets Act」:DMAの目的、ゲートキーパーの位置付け、非遵守時に科され得る制裁金の一般的な上限を確認しました。 https://www.consilium.europa.eu/en/policies/digital-markets-act/